調剤事故対策の盲点:それは本当に「ヒューマンエラー」ですか?
(薬局経営コンサルティングブログ)

ヒューマンエラーとバイオレーションの違い

皆さんの薬局では、ヒトに起因する調剤過誤やヒヤリハットが起きた際、すべてを「ヒューマンエラー」の一言で片付けてしまってはいないでしょうか?
「次は気をつけよう」という精神論や、ダブルチェックの形骸化だけでは、防げない事故が確実に存在します。  
実は、ヒトに起因する不安全行動(Unsafe Acts)は、その性質によって大きく2つに大別されるのです。


「不本意なミス」と「意図的な逸脱」の正体
 まず、この2つの概念を整理しましょう。  

 ・ヒューマンエラー (Human Error):
  正しい手順を実行しようとする意志はあるものの、不本意に失敗してしまう現象です。これには、処方箋の読み違えといった「知覚ミス」、
  調剤中の割り込みによる「記憶の欠落」、薬の取り違えといった「判断ミス」が含まれます。

 ・バイオレーション (Violation):
  「違反」を意味し、決められたルールや標準手順書(SOP)から、意図的に逸脱することを指します。「これくらいなら大丈夫だろう」という

  慢心による近道行動や、多忙を多忙を理由とした手順の中抜きがこれに該当します。

 この分類は、心理学者ジェームズ・リーズン(James Reason)が提唱したモデルに基づいています。日本国内でも厚生労働省の安全衛生情報センターやJIS規格

(JIS Z 8051)など、多くの公的ガイドラインで採用されている国際的なスタンダードです。

 対策の方向性は「別物」である
 なぜこの2つを厳密に区別する必要があるのでしょうか。それは、原因が異なれば、講じるべき対策も全く別物になるからです。
 ・ヒューマンエラーへの対策例:
  人間は必ずミスをする動物であるという前提に立ちます。対策は「個人の注意」ではなく「環境」に向けられます。
  例: 似た名称の薬(秤量ミス防止)に警告ラベルを貼る、散剤監査システムを導入する、作業中の割り込みを禁止する物理的なルール作りなど、
   いわゆる「ポカヨケ」やシステムの改善が有効です。

 ・バイオレーションへの対策例:
  こちらは「あえてルールを破っている」状態です。システムの改善以前に、意識や組織構造へのアプローチが必要です。
  例: なぜルールを守ると時間がかかるのかという「作業負担の再評価」、形骸化したルールの見直し、 あるいは「ルールを破ったほうが合理的」
   と感じさせてしまう組織文化の変革が必要です。
 
 

「何でもヒューマンエラー」の危険性
 薬局現場では、本来バイオレーションである事象(例:忙しいからと監査を一部省略した、バーコード照合を後回しにした等)を、
「うっかりしていた」というヒューマンエラーとして処理してしまう傾向が散見されます。
 しかし、バイオレーションに対して「注意不足」として対策を立てても、根本的な解決にはなりません。それどころか、現場の人間は

「本音と建前」を使い分けるようになり、潜在的なリスクはさらに隠蔽されていくでしょう。
  
 
不具合が起きた際、それが「やりたくてもできなかったヒューマンエラー」なのか、「やれるのにやらなかったバイオレーション」なのか。
この起点を正確に見極めることこそが、患者様の命を守る安全管理の第一歩となるのです。
今一度、自店の過誤報告書を見直し、真の対策検討に踏み出してみませんか。

薬局経営者研究会では、バイオレーションとヒューマンエラーの区別を踏まえた
調剤薬局におけるヒューマンエラー対策研修
を実施しています。  詳細は上記リンクをご参照ください。



2026.05 一般社団法人薬局経営者研究会 経営コンサルタント 久保 隆